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プレイアブルキャプテンで目指す「楽しさ・ときめき」のアルピコ。

アルピコホールディングス株式会社
代表取締役社長 佐藤 裕一

更新日:2023年9月20日

1960年 長野県生まれ。東北大学卒業。
1984年 株式会社八十二銀行入行。
2006年 松本電気鉄道株式会社(現:アルピコ交通株式会社)へ出向。
2022年 アルピコホールディングス株式会社 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

13年ぶりに経営者としてアルピコグループへ。

1920年の創立以来、長野で交通、観光、小売りなど、地域と共に歩んできたアルピコホールディングスで2022年から社長という任務に就いています。実は以前も、2006年から3年の間、ここで社員の皆と一緒に仕事をしておりました。

1984年に新卒で八十二銀行に入行し、諏訪支店を皮切りに新宿支店や、長野県庁の企画局、松本支店、ニューヨーク支店などへの赴任、川中島などでの支店長を経て、46歳のときに当時の松本電気鉄道株式会社へ出向となったんですね。その間に2007年の私的整理に関するガイドラインに基づいた事業再生も経験しました。

その後銀行に戻り、役員をやっている間は融資担当だったこともあって、その視点でアルピコグループを見ていました。コロナ禍では当時一緒に仕事をしたメンバーの顔が思い浮かんできて、苦境のなか現場は大変だろうなと心配していました。

そこから、まさか再び、今度は社長として赴任することになるとは想定していませんでした。しかし気負いはないですね。13年ぶりに戻ってきて、気心の知れている人がたくさんいるので心強いです。お互い13年間で成長していますし、私の肩書は社長になりましたが気持ちは当時のままで、“仲間”という感覚ですね。

自分の仕事を好きな社員たちが“アルピコ”を支えている。

それでも、私が就任したときからコロナ禍の影響をまだ引きずっていて、今も気が抜けません。そのなかで経営者として感じたのは、「現場への思いを大事にしていかなければだめだ」ということです。

2006年に来ていたときよりも、圧倒的に社内体制の整備ができていて、社員もしっかりしているので、社長が辣腕を振るうのとは違っていて、組織をしっかり掌握して見ていくという感じですね。それもあって、社長になって最初に始めたのは、グループ会社の役員や各事業所のメンバーと酒を飲もうということ。つまり、いま何をやっているのか、何を考えているのかを教えてもらうということですね。

嬉しいのは、アルピコや仕事を好きな社員が多いということ。逆に苦しんでいることは、人手不足や賃金アップで、それは経営側にとっての悩みでもあるし責任を感じます。それを繋ぎとめているのがアルピコや仕事を好きな気持ちなんです。小売りが好きな人がスーパーデリシアの店舗で、運転が好きな人がバスやタクシードライバーで、ホテルが好きな人が宿泊施設で、それぞれの仕事を好きな人が事業を支えてくれているんだと感じます。

社長2年目の私の目標は、グループ会社の社長たちと一対一で話をする時間を定期的に設ける、現場の人と話をする機会を作る、ホールディングスの担当部署ごとに話をする機会を作る、ということ。アルピコホテルズは車座ミーティングというのをやっていて、持ち場担当横断でメンバーを集めてひたすら話を聞いて、経営課題は討論・議論してフィードバックする、という取り組みをしています。

現場の意見が経営に反映される仕組みを作っていきたいんです。以前の赴任のときも、車座ミーティングを合計120回行ったことで、新聞に取り上げられたりしました。

アルピコグループは優れた現場の会社である。

銀行も同じだと思うのですが、アルピコグループは優れた現場の会社です。人が手足を動かして、手から手にサービスや商品をお渡ししてお代をいただき、少しずつ利益を積み上げていく会社なんです。鍵を握っているのは現場の人たち。だからこそ経営側も、現場の声を聴く努力をしないといけない。

自分としては、経営者というよりプレイヤー、監督ではなくキャプテンというイメージです。以前からそういうタイプで、銀行の役員をやっているときも、担当した業務改革が本当に現場で支持されているのか確認したくて、全店をひとりで回って話を聞きました。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」というセリフがありましたけど、本当にそうなんですよね、銀行もアルピコも。

経営というのはある程度、統制も必要なので、理屈やロジカルに決めたことを「やりなさい」と言わないといけない厳しい局面があります。しかし、それを受け入れてもらえるか、というところに目を向けないと、結局、画餅に終わる。かっこいい戦略が紙に書かれてあるだけでは意味がないんです。

経営サイドはもちろん努力をするけれど、実行するのは現場なので、現場にやる気になってもらわないと始まらない。そのために努力を続けるということが経営の役目だと思っています。

今後のアルピコ勝利の法則は「楽しさ・ときめき」。

以前から、アルピコグループの経営理念は素晴らしいと思っています。「アルピコグループは、信州に暮らす人々とその素晴らしい自然環境を愛し、『安全・安心』『便利』『快適』『楽しさ・ときめき』『知識』の提供を通じて豊かな地域社会の実現に貢献します」というもので、最近、幹部会議や取引先との会合などでスピーチを頼まれるとき、話すことが3つあります。

一つには、これからの勝負の決め手は「楽しさ・ときめき」だということ。安全・安心、便利、快適は当たり前のことで、経営の最も重要なインフラなんですが、差別化をするには、楽しさ・ときめき経営ということですね。

二つ目は両利きの経営です。私が2006年に来たときに31社あった既存事業は、組織統合などで現在は10社です。既存事業は「知の深掘り」なので、例えばビジネスモデル改革、具体的にはデジタルを活用して、人手不足にも対応できるモデルづくりが必要だと思っています。交通事業であればAIオンデマンド、スーパーなら無人スーパーとかドローン配送をセットにするといった方向かなと思っています。

「知の探索」の方は新規事業をいくつか検討しています。ビール醸造を考えていたり、2023年の春からはトヨタのGAZOOレーシングに車を仕立てて参戦したりしています。一戦目は我々が事業を行っている蓼科の別荘地を疾走しました。ドライバーを社内公募したら25人立候補があって、国際A級ライセンスを持っている貸切バスの運転手にやってもらうことにしました。メカニックもいるので、社内でチームを作れるんです。

あとは、秋にサッカーJ3リーグの『アルピコ松本山雅デー』があります。これまで冬に何もなかったので、2023年からバスケットボールBリーグの信州ブレイブウォリアーズのスポンサーを始めました。とにかく、楽しさとときめきを提供していきたいですね。

そして三つ目はサスティナブル経営。われわれも観光地で事業しているので、持続可能な経営ですね。この三つがこれから目指すべき方向だと思っています。

現場は人を減らせない。むしろ増やすために効率化は徹底的に。

いつも考えるのは、「その事業を誰がやるのか」ということ。やはり人手不足はボトルネックですね。事務方はAI活用プロジェクトを立ち上げていますが、現場は人を減らすことはできません。バスの自動運転や無人スーパーといったものを導入できればいいでしょうが、日本ではもう少し時間がかかるかと思います。事務方の人手は減らして、現場はむしろ人を増やしていく工夫を進めたいですね。

事務方のメンバーには、今あるものをより良くしていくという意識を常に求めています。人手が足りないなかで会社をやっていくには、事業を縮小するか、人を増やすか、仕事を減らすしかない。これは普遍的な論理です。例えば、「いま1,000億円ある売り上げを500億円でいいよ」となれば、いくらでもやりようはあります。しかし、我々は地域社会のために存在しているので、バス路線をカットしたり、人口減少地域にあるスーパーを閉じたり、といった事業縮小をする訳にはいかない。

人を増やすか仕事を減らすしかないんです。過剰品質の仕事を見直したり、昔からのパラダイムに捕らわれていたり、ガラパゴス化しているところがたくさんあると思うので、それを解きほぐしていくことが課題ですね。

分からないから任せる、は逃げ。一緒に考えるために自分も磨く。

孤軍奮闘だと感じるときもあります。ポリシーを少しずつ共有して、浸透させていかなければと思いますね。2006年に来ていたときに、アルピコビジネスカレッジという勉強会をやっていたのですが、それを2023年に再度立ち上げています。前回は経営戦略やマーケティング、ファイナンス、アカウンティングなど、いわゆるMBAの内容でしたが、今はリーダーシップ論ですね。

30代から40代の社員に体験型で学んでもらっているのですが、受講前と後で受講生はものすごく変わります。前回のカレッジを受講していたメンバーが、いま幹部になっているので、同じように成長してくれるのが楽しみです。銀行時代も人材育成に携わっていて、キャリアコンサルタントの資格も取ったので、人育ては私のライフワークのひとつだと思っています。

自分自身の考え方も赴任して1年ですごく変わったと思います。この会社はいろんな人がいるんですよ。銀行は良くも悪くもほぼ銀行しか経験のない銀行員だけで構成されていますが、アルピコは中途入社も多いし、バックグラウンドも異なっている。だからこそ一人ひとりの可能性に目を向けよう、と思うようになりました。

それぞれの良いところに光を当てて、対話して、全ては叶えられないかもしれないけれど希望を聞いていこうと思っています。これからは発想力がすごく大事で、多様な人、いろいろな価値観を持った人が集まった方がいいと思っているので、気持ちとしては当社に入りたいと思ってくれた人は全員来てほしいくらいです。

私は会社をスポーツチームだと思っているんです。最初は新入部員で入って、ボールの扱い方も先輩に教わって、試合の前には作戦を立てて、役割を決めて、ピンチにはタイムを取って作戦を練り直してPDCAを回す。勝てば喜ぶし、負ければみんなで泣く。会社も同じで目標を達成すれば社員みんな嬉しいし、達成できなければ“ボーナス減っちゃうな”という感じですよね。

そのなかで、私は監督ではなくプレイアブルキャプテンだと思っているので、常にみんなに声をかけていく。「分からないから任せるわ」は逃げだと思っているので、周りが言ってくることは理解できる状況に、常に自分を磨いておかなければと思っています。既存の組織論に陥らないように、一緒になって考えていけるキャプテンでありたいですね。

編集後記

コンサルタント
小澤 和明

創業100年を超えるアルピコグループは長野県のインフラ企業として、地元の生活を支えて来られました。私自身も幼少期より知っており、なじみ深い企業ですが、そのイメージは正直なところ固く、レガシーな会社というものでした。

しかし、今回のインタビューで社長から「私たちのサービスはすべて手渡し。だから現場の人がイキイキと働いてくれることが何よりも大事である」という考えを伺い、イメージが180°変わりました。

長野県民にとって最も身近な企業の一つであるアルピコグループは従業員の幸せを通じて、私たちへと幸せを手渡しで提供してくれているということに、一県民として誇らしさを感じました。次の長野県の100年を作るべく今後新しいサービスの計画もされていると聞き、私自身もアルピコグループとともに成長していきたいと強く思いました。

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